ヤマーン!特集

西日本が誇る秘境、エメラルドブルーの渓谷〜大杉谷〜を訪ねてみた

9月に入ってだんだんと夏の記憶から遠ざかり、山の世界はもう秋や冬の気配すら感じられるようになりました。そんな中、YAMAAN!にセクシー登山部の宮城さんから、関西が誇る秘境、大杉谷の沢登りレポートを寄稿していただきました。
大杉谷についてご存じない方のためにちょっと説明すると、関西の屋根と呼ばれる三重県の大台ヶ原にあるピーク、日出ヶ岳から登山道が終わる宮川第三発電所まで歩いて下ってざっと10時間半という、これ、登るなら一体どうすればいいんですかと問いたくなる超ロングなルートであります。
しかしながら記事にもあるとおり、西の黒部と呼ばれるぐらい、手つかずの原生林が残り、その中を歩けば見たこともないような秘境が広がるとあって、毎年そこそこの数の登山者がこの長い登山道にトライしているようです。

宮城さんらは日出ヶ岳から登山道を千尋滝まで降り、そこで1泊してから沢に入って2日かけて堂倉谷を経て日出ヶ岳に登り返すというルートを取っています。詳しくは記事を見ていただきたいのですが、次から次に登場する滝また滝。まさに圧巻です。お楽しみください!
うぉっちずの地形図を見つつ読んでいくとさらに楽しいですよ

--

台高・大杉谷-堂倉谷の沢登り。
2012年8月27-29日
藤巻 /  宮城(セクシー登山部)


「七ツ釜滝」


朝夕の風に涼しさを感じる。まだ始まったばかりだと思っていた夏はもう終わりを告げようとしていた。暑さが居残っているうちに、泳ぎ飽きるような大きな渓谷へ行っておきたい。夏の終わりに関西の秘境・大杉谷に行くことにした。無論、並走する登山道は使わない「沢登り」としてである。

大杉谷は西の黒部とも言われ、日本一の清流「宮川」の上流に位置し、世界的にも有数の降雨量を誇る大台ケ原から東へ水を落とす渓谷だ。両岸は「くら」と呼ばれる数百メートルにも及ぶ巨大な岩壁に覆われ、七ツ釜滝(日本の滝100選)をはじめ、支流・本流共に50mクラスの巨瀑をいくつも有し、50m以上の長大な淵が連続する。そのスケールからか「堂倉谷」など上部支流の記録は数あれど、本流の完全遡行の記録はほとんど聞かない。

初日、大台ケ原の駐車場から日出ヶ岳までの遊歩道を歩き、大杉谷登山道を下っていく。入渓予定地点の千尋滝までおよそ7時間強の下りだ。登攀具の入った重荷を薄いフェルトの沢靴で下るのは足腰にこたえる。天気はあいにくの雨。大杉谷登山道は平成16年の豪雨で崩壊。つい先日、崩壊地点を大きく迂回する林道コースが開通したが、ダイナミックな景観を楽しめる核心部を迂回するルートとなってしまっている事があってか、三日間でみた登山者は1組だけであった。

二日目、今日の行程は長く、夜明けとともに出発した。昨夜から雨が降り続いているが、幸い、増水の様子は見られない。大渓谷ゆえの懐の深さを感じる。

この日は朝一からの泳ぎとなる。夏とはいえ、山の朝は寒い。雨に降られてぬれた身体には少々こたえる。このような長い泳ぎと、河原歩き、巨岩くぐりをしていくと、2時間ほどで七ツ釜滝についた。登山道を使うより早いぐらいだ。

滝につくとまずは登攀ラインを目でおっていく。右からか、左からか。とりあえず左側の岩棚に簡単にあがれそうだ。流れに逆らいながら泳いでい取り付く。ここからが核心なのだが、朝から連続する泳ぎに息が上がる。

出だし、藤巻が滝の飛沫をあびながら左壁まで泳いで取り付く。先人たちはもっと奥側から取り付いていたが、より水流に近い攻撃的なラインで登っていく。壁は苔で異様にヌメヌメしており、タワシでブラッシングしながらの登攀となった。

次は水流の左のスラブを登っていく。大杉谷の滝全般にいえることだが、クラックが発達していて、カムがよく決まってくれる。

次の段からは傾斜が緩み、ロープを解いて、お互いフリーソロで登っていった。とはいえ、ヌルヌルしているので気は抜けない。巨大な青い釜に滝幅いっぱいに水を落とす美しい滝の側壁を登るのは心地よい。通常の岩登りでは味わえない、渓谷登攀の醍醐味だ。

七ツ釜滝をこえるとすぐ、登山道を崩壊させた巨岩帯にたどり着く。右岸の岩壁が豪雨でまるごと崩壊して谷を埋め尽くしていた。大型トラック大の岩が不安定に積み重なっており、慎重にこえていく。

巨岩帯をこえると、また大きな滝が目に入ってくる。光滝(50m)だ。これは程よい緊張感のフリークライミングでこえていく。この滝が今回の技術的核心だと思っていたが、この先の隠れ滝で苦しめられる事になった。

滝にとりくつまで、長い全力泳ぎとなる隠れ滝。宮城は泳力が足りずお助け紐を出してもらう。

滝は大量の水があるとはいえ、一見して簡単に戻れそうだったが、ヌメりと悪いホールド、それに加え、出だしが地面の裂け目に大量の水が吸い込まれているという、落ちたら絶対に助からない形状だった為、登攀には非常に時間がかかった。最後は藤巻が思い切り、粘りのクライミングで越えていった。

この後もいくつか泳ぎをまじえながら、15時には堂倉谷との出合いとなる取水堰堤についた。ちょっと早いがこの日は行動終了とし、釣りと焚き火を楽しんだ。

3日目、堂倉谷は巨大な釜をもち幅いっぱいに水流を落とす堂倉滝からはじまる。支流とはいえ、本流の大杉谷とかわらぬ迫力の水量だ。ここからは遡行記録も数多い人気の谷だ。大滝、巨大な釜、ナメ滝、ゴルジュと、次から次へと現れるアトラクションが遡行者をあきさせない。

連続する巨大なポットホール。自然の造形美に酔いしらされる。特に難しい箇所はないが、ゲップが出るほどの滝をこえていく。やや疲れてきたのかだんだんペースが落ち、休憩も増えていく。

堂倉谷は上流で6つの支流に別れる。中でもより山頂に直接つきあげる奥ノ右又に入った。ここにも泳ぎや大滝がでてくるから驚きだ。それでもいくつかの滝をこえていくと、だんだんと少なくなる水の音に終わりの近づきを感じる。最後はふくらはぎをパンプさせながら、ガレた斜面を喘ぎながら登っていく。笹薮の奥から話し声が聞こえた。遊歩道を歩く登山者の声だ。今回の冒険の終わりが訪れた。ピークを踏み、初日にたどった遊歩道をゆっくりと下っていく。頭の中は下山後の飯のこと、次の冒険のこと。さて、次はどこへ行こうか。

[Shingo OKAMOTO]
YAMAAN!では山道具、山デバイス、山にまつわらないけど山っぽい道具や山で使うと便利だよねみたいな商品、サービスの情報を常に探しております。これは!というものがありましたら、是非 info[at]yamaan.jp ([at]を@に直してお送り下さい)までお知らせ下さい。 メーカー様や旅行者様のニュースリリースも同じアドレスで受け付けております。
コメント